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札幌地方裁判所 昭和50年(わ)221号 判決

被告人 庄司恵一

大一五・九・二四生 無職

小笠原嘉己

昭四・九・一四生 指圧師

主文

被告人両名をそれぞれ懲役五月に処する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から二年間それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、別表記載のとおり、昭和四八年七月一八日ころから同四九年一月二三日ころまでの間一九二回にわたり、札幌市中央区南九条西六丁目二八五の六八第二イトービル内北日本相互経済互助会事務所において、不特定、かつ多数の者である中村ジユン子こと吉川良男ほか九三名から、一口五〇、〇〇〇円の入会金(ただし、そのうち一〇、〇〇〇円は維持費四〇、〇〇〇円は相互扶助金)を払込んだ場合は、これに対し後日二回にわたり合計一六〇、〇〇〇円を送金し、中途退会の場合においても四〇、〇〇〇円を限度として払込み金額を返還するとの約旨のもとに、相互扶助金名下に現金合計一八、一六〇、〇〇〇円を預り受け、もつて、業として預り金をしたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

一、判示所為 包括して出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律一一条一項一号、二条一項、刑法六〇条(懲役刑選択)

一、刑の執行猶予 刑法二五条一項

一、訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

(当裁判所の見解)

一、被告人両名は、「朝日相互経済互助会」「天下一家の会」などのいわゆるネズミ講の組織運営方法などを参考にして、昭和四八年七月ごろ本件「北日本相互経済互助会」を設立し、被告人庄司が会長に、同小笠原が副会長となつて同会を統括運営していたものである。

二、両名は、北日本相互経済互助会の名称のもとに、判示のような約旨のもとに金銭の預り受けをするにあたり入会者(仮に甲という)に対し「入会者甲に後続して入会した者二名は、その子会員(二番会員)となり、右二番会員に後続して入会した者四名は、二番会員一名につき二名ずつがその子会員(三番会員)となり、以下順次ネズミ算式に会員が増加して三番会員にまで達したとき、すなわち甲会員の系列に属する会員が、甲会員を含めて七名に達したときは、うち二名分の扶助金計八万円を、さらに増加して五番会員にまで達したとき、すなわち甲会員を含めて三一名に達したとき二名分の扶助金計八万円を、それぞれ、甲会員に対し、会より送金する。甲会員が送金を受けた後は、二番会員が甲と同様の地位に立ち、甲に対すると同様の仕組みにより送金される」旨の説明をも加え、被告人両名もまた、このように運営する意図であつたが、実際は、個々の会員の位置づけ(系列、先後順)を必ずしも明確にすることもなく、系列会員が必ずしも三一名に達しない場合でも、判示約旨のように入会後三ヶ月目に八万円、六ヶ月目に八万円計一六万円を送金する運営を行なつていた。そのため送金資金となる入会金(うち相互扶助金)を調達するため、会自体(被告人両名)が主体となつて会員を獲得し、入会金の受入れ、保管、扶助金(前記一六万円)の送金等の事務一切を会(被告人両名)が行なつていたもので、同会においては、類似講にみられるように、会員相互間の送金、会員の後続会員勧誘義務等はなかつた。

三、出資の受入、預り金及び金利等の取締り等に関する法律二条一項は、「業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない」と定め、右にいう「預り金」とは、同条二項に列挙されている預金等と同様の経済的性質を有するものをいうこととされているのであるが、これら預金等は、いずれも元本額の返還が保障されており、金銭の価額が主として当該金銭の「きよ出者」の利便のために保管されるという性質を持つことにおいて共通し、さらに、同条の趣旨が、元本額の返還保障を信頼し、零細な資金をきよ出する大衆に不測の損害を蒙らしめないよう、かかる金銭の保管を業とする者を厳重に規制しようとするにあることを考えると、同条にいう「預り金」とは、結局預金等に共通するかかる性質を具備するものを指すと解すべきである。

四、本件においては、入会金五万円のうち、一万円は、同会の維持費に充てられるものとして同会が収納し、かつ、入会者が中途脱会した場合にも返還しない旨の約で同会が受け入れたものであるから、右相当金額については、元本返還の保障はないものといわざるを得ない。しかし、残四万円については、会員が中途脱会をする場合にあつても、すでに元本額以上の送金を受けている場合を除き、これを返還する旨約し、通常の場合にあつては、元本額を超える一六万円の送金を約していることが認められるから、入会金のうち、四万円(扶助金分)については、会が、会員に対し、元本額の返還を保障したものと認められる。

してみれば、被告人両名が交付を受けた本件入会金五万円のうち、四万円については、出資の受入、預り金及び金利等の取締り等に関する法律二条一項にいう「預り金」に該当するものというべく、また、これを受け入れた被告人両名の判示所為は、共謀による同法一一条一項一号の罪にあたるというべきである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 田口祐三)

別表(略)

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